ホームアセットバイアスを知って資産形成・防衛に役立てよう

青木博史

1.はじめに

現在の日本は、他国に比べて90年代から GDP があまり伸びておらず、さらに人口減少や高齢化などの問題も抱えています。
しかし、昔のような成長を見込むのが難しい中でも、自国通貨である円に対する信頼感が、他国よりもまだまだ強い傾向にあります。

そんな中、新型コロナウイルスワクチン開発のニュースなどから、日経平均株価はバブル後の高値を更新しました。資産運用に積極的になっている投資家もいれば、経済状況の先行きが不安な状況下での株高に対し、定期預金に投資資金の大部分を預けて様子見の投資家もいいるのが現状です。

今この時期に資産形成を進めるのか、資産防衛を貫くのかを考えるためにも、。

この記事ではホームアセットバイアスについてお伝えいたします。

2.ホームアセットバイアスとは?

ホームアセット・バイアスとは、投資家が株式投資を行う際に、自国市場への配分が高くなる 傾向のことを指します。リスクを恐れて円預金だけで資産を保有する場合も同様に「ホームアセット・バイアス」にあたります。

ファイナンス理論によると、投資家がとるべき資産配分は、完全に摩擦がない世界では、全世界インデックス・ファンドを保有すべき、というものです。

「ファイナンス理論」と言う言葉が出てくると、それだけで急に難しく聞こえてしまうかもしれませんが、ざっくり言ってしまうと、日本だけではなく全世界に分散して配分した方がいいし、更に、アクティブ・ファンドや個別銘柄の株式、ETFなどではなく、簡単に分散投資可能なインデックス・ファンドがいいよと言うことです。

ちなみに、ここで言う「摩擦がない世界」とは、全ての投資家が同じ情報を持ち、同じ情報分析能力があり、つまり、全て の投資家の株式投資に対するリスク・リターンは共通で、さらに、情報収集や取引などのコス トがない世界のことです。

一方、日本の年金基金における現実の株式配分は、全世界インデックス・ファンドとはかな り異なっています。それは、全世界インデックス・ファンドは、米国株が約 42%、日本株が約 10%、英国株が約 9%の割合 であるのに対して、厚生年金基金では、日本株 60%、外国株 40%と、国内株式への配分が高という点です。

こうした点においても、年金運用では基本ポートフォリオの策定時に、ホームアセット・バイアスが組み込まれる傾向があるといえます。

例えば、公的年金が平均分散法を用いて基本ポートフォリオを構築する場合、
まず、 資産クラス毎にリスク、リターン、相関係数を推計し、これを基に同じ期待リターンであれば、 リスクが最も小さいポートフォリオの集まりである効率的フロンティアを計算します。

その際、 「外国株式≦国内株式」という制約条件があるので、
どうしても国内株式が多くなる傾向が出てしまうのです。
この制約条件自体がホームアセット・ バイアスと呼ばれることがあります。

このように、年金運用をはじめとして、日本がホームアセット・バイアスが強い環境、土壌であることによって、日本人の「日本円」に対する信頼性の高さを作り上げてしまったと言っても過言ではないでしょう。

2-1.なぜホームアセットバイアスに陥るのか?

投資環境が整備され、欧米やアジアなどの世界各地の株式に投資したり、外貨預金で運用したりすることが容易な時代になったにもかかわらず、なぜホームアセットバイアスに陥ってしまうのでしょうか。その要因は主に3つ挙げられます。

2-1-1.情報収集コスト

外国株式投資に関する情報収集コストは、国内株式と比べ相対的に高いです。なぜなら、日本人にとって依然として言語の壁があるためです。そのため、外国企業を理解することが難しく、それなりの人員を準備し、組織体制を充実させなければ、タイムリーな情報を得ることができません。

2-1-2.情報の非対称性

決算書やその企業に関するニュースで、株式の売買を決定する事も多いですが、外国語で書かれた決算書を読み込んで、投資判断を下すのは、多くの人にとってハードルが高いです。

2-1-3.為替リスク

外貨預金で高金利の通貨を運用すれば、円預金よりも高い金利収入が期待できます。ただし円高に振れると、せっかくの金利収入も相殺され、元本割れのリスクが出ます。
一方、為替相場は円安に動く可能性もあり、この場合は為替差益によって利益が上乗せされることもあります。しかし、人は利益よりも損失に敏感に反応してしまうため、損を出したくないという気持ちから、自国通貨に依存してしまいます。

2-2.ホームアセットバイアスはリスクになる?

高度成長期やバブル期の日本であれば、国内のみの投資でも相対的に高い利益が確保できたかもしれません。しかし現在は、少子高齢化に伴う国内市場の縮小や社会の成熟化により、過去のような高い経済成長率は期待しづらいのが現実です。

さらに自然災害の多い日本では、いつ次の災害が起こるかわからず、ホームアセットバイアスに陥っている状態は投資としてリスクが高いといえます。

年金積立金管理運用独立法人 (GPIF) もかつては資産の半分以上を国内債券で運用し、ホームアセットバイアスにかかった状態でした。しかし、現在は国内株式・国内債券・海外株式・海外債券それぞれ25%ずつを目安にし、国内対海外の比率が50対50になるようにポートフォリオを組んでいます。

このことからもわかるように、国際分散投資を実践していくことは1つの投資モデルとして確立しているのです。

3.国際分散投資を行う上での3つの注意点

国際分散投資を行う際にも、主に3つの注意点があります。

以下で簡単に説明します。

3-1.地域

まずは地域の分散をすることです。イメージとしては日本<米国<先進国<全世界というように、投資対象を広げることでリスクの軽減が図れます。

3-2.商品

投資商品を分散する事も鍵になります。株式以外に債権や不動産、原油などのコモディティを利用し、幅広い資産で運用することも、リスク管理になります。

3-3.タイミング

投資時期もドルコスト平均法を活用して、高値掴みをしないように、長期的に投資することがリスク軽減につながります。

4.まとめ|ホームアセットバイアスを知って資産形成・防衛に役立てよう

国際分散投資には為替リスクが潜むため、価格変動リスクが存在するのは避けては通れない事実です。一方で、外貨の価格変動を恐れ、ホームアセットバイアスに陥った状態での投資継続もリスクとなり得ることを十分に理解し、認識しなければいけません。

日本はバブルが崩壊するまで、定期預金だけで10年後に2倍になるような金利が適用され、上りのエスカレーターに乗っているように、皆と同じことをしていれば誰もが資産を築ける時代でした。

しかし、今は下りのエスカレーターに乗っているような状態です。30年前に比べて定期預金で2倍にするには数万年を要します。これまでのマインドで、まわりと同じことをしていたら、老後破綻という結末もあり得ます。

これからの時代は、日本だけで見るのではなく、幅広い視野で資産運用を考えていく必要があります。

まずは自分の資産のポートフォリオを見直してホームアセットバイアスに陥っていないかをチェックしてみましょう。その上で外国株や外貨預金を活用しながら、国際分散投資のスタンスでリスクの管理を進めることが、資産形成・防衛の両方に繋がっていく行動になるはずです。

この記事を参考に、ぜひともホームアセットバイアスを理解し、資産形成やリスク管理に役立ててくださいね!

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