「FIRE」って何?若年層ほど興味深々な生き方・働き方の注意点とは

青木博史

1.はじめに

まとまった資産や十分な副収入を手に入れ、早く会社を辞めて自由に生きたい……。

サラリーマンの多くが「脱サラ」の夢を一度は思い描いたことがあるのではないでしょうか。

米国でも「アーリーリタイア」は今も昔も成功者の証しです。そんな早期退職が今、「FIRE」という新たな名前を得て若者たちの熱い視線を集めています。

この記事を読んでいる方の中にも「FIRE」という言葉を「聞いたことはある」「知っている」という人はいるでしょう。

そんな「FIRE」ですが、現状日本では「私はFIREです」「FIREを目指して実践中です」という人はまだかなり少数派のようです。

この記事では、「FIRE」について、注意点なども含めて詳しくお伝えします。

2.「FIRE」って何?

「FIRE」とは、Financial Independence, Retire Earlyを略した言葉です。

一つひとつの単語を訳すと、

Financial    ・・・ 財政上の、金融の
Independence ・・・ 独立、自立
Retire     ・・・ 退職する 引退する
Early      ・・・ 早く 初期に

つまり「FIRE」とは、経済的な独立を目指し実現することで、早期退職が可能になる生き方のことです。

2-1.経済的に独立し、早期退職を可能にする生き方

「早期退職」と同じ意味なのでは?と思うかもしれませんが少々違います。

早期退職は、定年を待たずに退職し、その後の生活資金は、退職金や公的年金、足りない分は貯金を切り崩しながら生活します。

FIREは、早期退職が目的ではありません。必ず早期退職しなければいけないわけでもありません。経済的に独立し、貯金を切り崩すことなく、何歳までもお金の心配をせず、自分らしいライフスタイルを保つ生き方こそが目的なのです。

そのために、FIREを実現するための指標が2つあります。

1つめは、25年分の生活費を貯めること

例えば、毎月の生活費が25万円だと、年間の生活費は300万円、25年分の生活費は7,500万円になります。毎月の生活費が25万円であれば、7,500万円貯めればFIREが可能です。ここで気づく人も多いと思いますが、FIREを実現するためには、貯金額ももちろん大切ですが、毎月の生活費を節約することも大切になります。

2つめは、資産で4%の運用益を上げ続けること

例えば、毎月の生活費が25万円で、その25年分の7,500万円を貯めたとします。その7,500万円を年利4%で運用できていれば、毎年の運用益は7,500万円×4%=300万円、年間の生活費と同額になります。4%の運用益を保ち続けられるなら、頑張って貯めたお金を切り崩すことなく、何歳までも生活していけるという計算になります。

2-2.自由のためなら質素な暮らしや軽労働はいとわず

厳密な定義はありませんが、給与収入の大半を貯蓄や手堅い投資に回し、必要最低限まで生活費を絞り込んで、40代前後など早期のリタイアを目指すとういうのが、「FIRE」的な生き方、考え方です。退職後もシンプルに暮らし、自分のペースで働けるなら働くことも厭わない――というイメージです。

出世と引き換えに60歳までの時間を会社に捧げるのではなく、一生遊んで暮らせる大金を稼ぐことを人生の目標にするのでもなく、自分の生活や家族との時間を優先してシンプルに暮らしたいと考える米国のミレニアル世代(1981~96年生まれ)を中心に熱い支持を集めつつあります。

最近では、昔ながらのアーリーリタイアのように、投資収益だけでのんびり暮らす「Fat FIRE(豪勢なFIRE)」や、投資収益が少ない分をアルバイト等の収入で補う「Side FIRE(サイドビジネスでFIRE)」といったバリエーションも誕生。医療保険が高い米国では、保険に加入する権利を得るために、コーヒーショップでパートのバリスタ店員などとして軽い就労を続ける「Barista FIRE」というFIREスタイルも登場しています。

そして、このFIREブームは日本の個人投資家の間にも着実に浸透しつつあります。以下の表は投資をしている会社員に「投資の目的」を尋ね、その答えを年齢層別にまとめたものです。

全体の1位は「老後資産づくり」だが、若くなるほど投資の目的を「早期リタイア」に据える会社員の比率が増えていることが分かります。

2-3.なぜ、このような生き方や働き方が注目されるの?

ひと昔前の日本であれば、新卒で入社した会社に定年まで勤め、年功序列で給料は右肩上がり、無事に定年を迎えれば退職金をもらい、退職金や公的年金で老後生活を送るのが主流でした。

今は、新卒で入社した会社に定年まで勤める人は少なく、転職や無職期間を経験する人もいます。右肩上がりの給料は必ずしも保証されていません。退職金も少なかったり、無い場合も考えられます。

今は、多様化の時代であり、個人が思い描く理想のライフスタイルも様々です。そんな中、若いうちにしっかり稼ぎしっかり貯め、早い段階で経済的独立を実現して、お金に縛られないライフスタイルに移行したいと願う人が多くなっているのかもしれません。

3.「FIRE」達成に必要な資産は?

FIRE達成の鍵を握るのは「お金をかけない生活」と「辞めても困らないだけの資産」です。実際、20~30代でFIREを達成した人には、徹底した節約生活で投資資金を捻出して、早期に資産を築いたケースが少なくない。お金をかけずに暮らすスキルは、FIRE達成のためにも、FIRE達成後の生活のためにも重要と言えます。

ところでFIREをするには最低限、どのくらいの資産が必要になるのでしょうか。米国で多くのFIRE志願者が見積もりの参考に使っているのが「4%ルール」です。これはトリニティ大学の教授が発表した退職後のお金についての研究結果で「トリニティ・スタディー」とも呼ばれます。

リタイアした時点で、手元資金を運用しながら一定割合で引き出す場合、何年持つかを、過去の米国株・債券の値動きを用いて検証した研究です。それによると、年間生活費の25倍をリタイア資金として用意し、これを米国株のインデックス連動型ETFに50、米国債に50の割合で運用すると、ここから年4%ずつ生活費を引き出しても、30年間は枯渇しない可能性が高いといいます。30年以上持たないと困るという人もいるだろうし、この4%ルールは日本の税制も為替も考慮していませんが、一つの目安にはなるでしょう。

4.「FIRE」を目指すには

「FIRE」という新たな生き方や働き方を知り、「自分も目指してみたい」「これこそが、私が理想としていたライフスタイルかもしれない」と思った人もいるかと思います。

そこで、FIREを目指すうえで大切なポイントを3つお伝えします。とても単純ですが、とても大切なことです。

1:収入を増やすこと
入ってくるお金が多ければ多いほど貯金額を増やすことが楽になります。

2:生活費を抑えること
出ていくお金が少なければ少ないほど貯金額を増やすことが楽になります。

3:資産の運用益を上げること
頑張って貯めたお金の運用益を上げることで、貯金額も増え、切り崩すお金の量も少なくなります。

5.基本理念は実はマネープランの王道

「FIRE」は米国の著名なFIREアドバイザーの書籍の邦訳がいくつか発売されたこと、日本国内の個人投資家のFIRE実践例を紹介した書籍が発売されたことから注目が集まっているようです。

いくつかの書籍をチェックしてみた感触としては、目標は壮大ですが、アプローチそのものはおかしいことをいっているわけではありません。

例えば、

・所得の最大化をはかるべく、仕事で年収を増やす方法を強く意識する
・支出の最小化をはかるべく、固定支出、日ごろの生活費を削減する
・収支差額を資産形成に回し、リスクとリターンのバランスを意識しつつ高い利回りの確保を目指す

ということ自体はマネープランニングの王道そのものです。

細かいアプローチの部分では「年収の70%を貯蓄しよう」といったり、「インデックス運用で十分」といったり「個別株で勝負をしよう」といったりする人もいますが、FIREの基本は計画的な老後資産形成そのものなのです。

6.「FIRE」を目指すなら年長者の批判は無視しよう

最近、FIREが話題になったからか、年長者が「FIREなんてくだらない」と批判をするのも目にします。例えば、早くに辞めたところで時間を持て余すだけで意味がない、という人がいます。

確かに、趣味や生きがいを持ってどう自由時間を過ごすかは難しい問題です。しかし「自分ができなかった悔しさから、若者を嘲るタイプの年長者」の発言は無視してかまいません(実際、そういう年長者は結構いるものです)。

あなたがもし本気でFIREを目指して、30歳代から50歳代前半まで週60時間労働をしたり、株式投資のために毎週10時間以上経済情報収集をしたりと本気でがんばったのなら、そのご褒美として人より5年あるいは10年早い引退を選ぶこと自体は誰から咎められるようなことではないでしょう。

経済的安定を確保したのち暇を持て余すのなら、収入を度外視して起業をしたり社会貢献をしたりしてもいいのです。それこそ、FIREを達成した人でなければできないチャレンジともいえます。

世の中にはとかく、年少者の成功を妬む輩がたくさんいますが、若い世代は気にせずFIREを目指して行動してみるといいでしょう。

7.未達でもいいと割り切ることも大事

ところで、FIREを成功させられないこともあります。思ったより資産形成がはかどらなかった場合、残念ながらアーリーリタイアメントを断念することもあるでしょう。

しかし、ここで「やはり年長者の言うことは間違っていなかった」とうなだれる必要もありません。ここまでがんばってきたFIREへの努力は決してムダにはならないからです。

なぜなら、あなたは「同じ年齢で引退する周囲の友人より、経済的豊かさを持ったリタイア」になるからです。結果として1億円をためられなかったとしても、同僚に数千万円の資産格差があれば、あなたのセカンドライフもより自由で豊かなものになってくるでしょう。

8.まとめ|「FIRE」って何?若年層ほど興味深々な生き方・働き方の注意点とは

「FIRE」を目指すことにはさまざまな意見がありますが、いい面も多いと言えます。

①積極的に貯蓄や投資を始めること
②投資にお金を回すために生活費の節約を真剣に考えて取り組むようになること
③「いつまでにいくらためる」という計画と合わせて長期のライフプランを考えること

これらは家計を豊かにするためには必要なのに、みんながなかなか真剣に取り組めずにいたことです。

ただし、注意してほしいこともあります。

お金をできるだけ早く増やしたいという気持ちから、怪しげな投資にはまってしまう可能性があることや、早期退職後は給料や退職金が入らず、将来の年金額も下がること、社会保障も国民健康保険や国民年金に自分で加入しなくてはならなくなることです。

「FIRE」には、自分で投資先を選んで実行できる力が一番大事です。怪しい投資商法のカモになってしまうようなら、「FIRE」の達成は難しくなります。

一方で、「FIREムーブメント」は「老後に2000万円」問題を解決する糸口になり得るのではないか?という意見も見かけます。

上記のことを踏まえた上で、あなたも、人生設計の一つの選択肢として、日本版FIREを考えてみてはいかがでしょうか。

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