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1.はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大も1つのきっかけとなり、買い物の際に現金と接触することなく支払いが完了する「キャッシュレス決済」が日本でも徐々に普及しています。クレジットカードやデビットカードなどを日常生活で使われている読者の方も多いのではないでしょうか。
交通機関や近所のコンビニでのちょっとした買い物。
ネット通販やレストランでの食事の支払いなど。
いろいろなシーンで、誰でも一度くらいはキャッシュレス決済を利用したことはあるはずです。
日本人は現金での決済が主流と言われる昨今、
隣国の中国や韓国よりは浸透が遅れているとは言われていますが、
確実にキャッシュレス決済の波は、ここ日本でも感じられます。
一方で、なぜ、キャッシュレスの方向に世界が動いているの?と疑問に思われる方や、現金ではないとなんとなく不安を感じる方も少なくないかもしれません。
PayPay、LINE Pay、メルペイなど企業の新規参入が続くキャッシュレス決済事業。経済のキャッシュレス化は、私たち消費者にどんな未来をもたらすのでしょう。
この記事ではキャッシュレス決済がもたらすメリット・デメリット、仕組みについてと、日本のキャッシュレス決済の今後について解説します。
2.現金決済にかかるコストは年間約8兆円!
しかし、なぜここまで世界各国がキャッシュレス化を進めたいのでしょうか。
その理由は主に現金決済にかかるコスト削減にあると言われています。
これは日本の話になりますが、みずほ総合研究所の試算によると、キャッシュレス化により現金決済にかかるコストは年間8兆円といわれています。そして、そのコストの内訳は、現金の取り扱いや、管理、警備のような、直接販売・経営に関係がない諸経費なのです。
現金決済にかかるコストは年間8兆円と聞いてもピンとこないかもしれませんが、日本のGDP(国内総生産)はおよそ540兆円。つまり、そのうちのおよそ2%(8兆円)が現金決済にかかるコストとなっていると考えると多少その金額がどのくらいかお分かりいただけると思います。
そして、上記のことからも、キャッシュレス化の促進は、現金決済を続けている限り無駄な経費が無くならないと言う結論に基づくものと考えられます。
3.キャッシュレス決済とは
キャッシュレス決済とは現金を使わずに買い物などの代金の支払う方法のことです。現金(キャッシュ)が不要(レス)な決済なのでキャッシュレス決済と呼びます。
近年、日本ではキャッシュレス決済を利用する人が増えています。しかし世界的に見ると日本のキャッシュレス決済比率は高いとはいえず、韓国、中国、アメリカ、インドなどと比べるとまだまだ遅れているというのが現状です。
なお、日本政府は2019年10月1日の消費税引き上げに伴い、需要平準化対策として「キャッシュレス・消費者還元事業(ポイント還元事業)」を実施しています。2019年10月から2020年6月までの間、対象店舗におけるキャッシュレス決済で最大5%のポイント還元が受けられます。
4.キャッシュレス決済の種類
キャッシュレス決済には主に次のような種類があります。
4-1.クレジットカード決済
1950年代にアメリカで誕生し、現在では世界中に普及している代表的なキャッシュレス決済です。クレジットカード決済は商品購入に際し、カードを所有する人の信用に基づいて後払いで決済が行われます。
4-2.電子マネー決済
専用のカードやスマートフォンアプリにお金をチャージ(入金)して、そのカードやアプリを使って支払いができるキャッシュレス決済方法です。SuicaやPASMOなどの交通系電子マネーのほか、ショッピング系電子マネーなど、現在では非常に多くの電子マネーが登場しています。
4-3.QRコード決済
スマートフォンにダウンロードした専用アプリと、QRコードを使って支払いをする決済方法です。QRコード決済には、ユーザー側が端末に表示させたQRコードを店側がスキャナーで読み取るパターンと、店側が提示するQRコードをユーザー側が読み取るパターンがあります。QRコードではなくバーコードを使う方法もあり、まとめてコード決済とも呼ばれます。
4-4.デビットカード決済
カードの決済と同時に銀行口座から同額のお金が引き落とされる決済方法です。銀行口座の残高が足りない場合は利用できません。キャッシュカードを決済手段として使えるタイプと、別途デビット決済専用カードが提供されるタイプがあります。クレジットカードと同様の国際ブランドが提携している場合は、原則その国際ブランドの加盟店でデビットカードが使えます。
5.キャッシュレス決済の仕組み
キャッシュレス決済は次の3つの方式に分けられます。それぞれの仕組みを説明します。
5-1.前払い
事前にお金をチャージしておき、商品の購入時にチャージした金額から支払うのが前払い方式です。電子マネー決済は基本的に前払いです。
5-2.即時決済
商品を購入する際に、すぐさま銀行口座から料金が引き落とされるのが即時決済方式です。デビットカードのほか、QRコード決済のなかにも即時決済方式が利用できるものがあります。
5-3.後払い
商品を購入する時点では支払いは発生せず、翌月などの支払日に指定銀行口座からの引き落としなどで毎月の利用分の料金をまとめて支払うのが後払い方式です。クレジットカード決済はこの方式です。
6.キャッシュレス決済のメリット・デメリット
ユーザー視点でキャッシュレス決済を利用するメリット・デメリットについて考えてみましょう。
6-1.キャッシュレス決済のメリット
キャッシュレス決済のメリットとして、まず挙げられるのは支払いが楽になることです。
現金を持ち歩く必要がなくなり、時間や手間をかけずスピーディーに支払いができます。レジカウンターではもちろん自動販売機でも電子マネーが利用できたりと、キャッシュレス決済できる機会が増えています。
また決済の履歴が残るのもキャッシュレス決済ならではの特徴です。履歴が残るので、お金の流れをあとから確認でき、管理しやすくなります。
利用する際にポイントが付くのもメリットです。電子マネーにもクレジットカードにもポイントがたまる仕組みが用意されており、電子マネー機能付きクレジットカードではクレジットカードを使ったチャージでもクレジットポイントがたまるのが一般的です。QRコード決済にもポイントサービスは設けられています。航空会社系クレジットカードの場合はポイントの代わりにマイルがたまり、たまったマイルを特典航空券に交換できることから人気があります。
6-2.キャッシュレス決済のデメリット
キャッシュレス決済のデメリットとしては、利用できる店舗が限られることが挙げられます。店によってクレジットカードが利用できても、電子マネーやQRコード決済に対応していないようなケースもあります。またキャッシュレス決済は基本的に電子機器を使用するため、災害時などには使えなくなることも考えられます。
またセキュリティに対するリスクも頭に入れておくべきでしょう。クレジットカードや電子マネーカードの磁気情報をスキマ―と呼ばれる機械を使って読み取るスキミングによる被害は現在も少なくありません。サイバー攻撃により、電子マネー決済やQRコード決済に紐付けられているケースも含め、クレジットカード情報が盗み出されるケースもあります。セキュリティ対策は、事業者はもちろんですが、ユーザー自身も取り扱いに注意する必要があるでしょう。
7.日本はキャッシュレス後進国!?
世界的に見ると、まだまだ日本のキャッシュレス比率は低く、現金志向が強い国と言われています。
実際、決済に占めるキャッシュレス比率は、2017年の実績値で韓国では90%以上、中国でも70%以上となっており、欧米の先進諸国でも概ね40~60%となる中、日本はわずか20%程度に留まっています。※1
一方で近年では、「キャッシュレス決済」サービスを展開する各社が積極的にポイント還元などの施策を展開し、普及に力を入れていることもあって、徐々に日本においてもキャッシュレス化が浸透しつつあります。経済産業省の調査では、2010年以降日本におけるキャッシュレス比率は毎年上昇しており、2010年では13.2%であったのに対して2019年には26.8%と大幅に上昇していたとのことです。クレジットカードのみならず、QRコード決済などの新たな決済手段の利用も急速に伸びていることが要因の一つとして挙げられています。※2
2020年のキャッシュレス比率は、まだ政府からデータが提示されていないものの、今回の新型コロナウイルスの感染拡大もあり、日本のキャッシュレス比率は30%に近い水準に達していた可能性は高そうです。
ただしそれでもキャッシュレス化が進んでいる他国に比べると、まだ低い水準であるのが現実です。
※1:一般社団法人キャッシュレス推進協議会 キャッシュレス・ロードマップ 2020
https://www.paymentsjapan.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2020/06/roadmap2020.pdf
※2:キャッシュレス決済の中小店舗への更なる普及促進に向けた環境整備検討会 資料
https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200626014/20200626014-3.pdf
8.日本のキャッシュレス化が遅れている背景
日本のキャッシュレス化が遅れている背景には、治安が良く現金を盗られるリスクが低いこと、偽札が少なく現金に対する信頼度が高いことなどがあげられます。一方、キャッシュレス決済は使用記録が残るため、情報漏洩のリスクなども不安視されています。
消費者の視点からすると、購入履歴が筒抜けになるというのは一つのリスクです。ただ、この点はクレジットカードでも同じで、企業を信頼するしかないということになります。
また、現状で想定されるリスクは、通信やキャリア端末と言えます。例えば、端末の充電が切れてしまったら決済ができないことも考えられます。大規模な通信障害が発生した場合でも同様のことが起こるでしょう。スマホを使えない高齢者にとっても、キャッシュレス化が生活の障壁になる可能性もあります。
つまり、キャッシュレス化が進むことで
- 便利になる分、それに対応が出来ない人々は不便になる可能性
- 電気・通信のある環境に依存しないと生活ができない将来が来る可能性
この2つについて心得ておく必要があると言えます。
9.まとめ|日本のキャッシュレス決済事情の行く末は?現金を持たない生活に向けて考えるべきこととは
日本では2019年10月の消費税増税に伴い、増税に伴う駆け込み需要などの平準化とキャッシュレス決済の普及促進を目的としたキャッシュレス・ポイント還元事業が2020年6月まで実施されました。このタイミングでキャッシュレス決済を意識して活用するようになった読者の方も多いのではないでしょうか。
さらに、日本政府が2025年までにキャッシュレス決済比率を4割程度に引き上げることを目標として、それに沿った政策を実施していることも踏まえると、「国策に売りなし」といった格言もありますが、「キャッシュレス決済」の今後の潜在的な成長可能性から、キャッシュレス決済関連の企業や業種をテーマとして投資を考えてみるというのも面白みがあるかもしれません。
とにもかくにも、キャッシュレス決済は政府も推奨しており広く浸透してきています。
ですから、この「キャッシュレス決済の動向」に関しては、『利用者目線』では賢く導入することがこれからの世界を生きるために必要になってくるでしょう。そして、『投資家目線』としては、今後の成長に注目したい市場と捉えると面白いかもしれません。